1 00:00:01,993 --> 00:00:06,497 旦那様が どれほど 嘆き悲しんでおられるか。 2 00:00:06,497 --> 00:00:11,997 こんな日に 旦那様に背いた方の 顔を お見せしたくありません。 3 00:00:16,007 --> 00:00:18,910 お二人を 通すわけには いきません。 4 00:00:18,910 --> 00:00:25,610 ♬~ 5 00:00:34,659 --> 00:00:37,959 (千代)ああ~っ! 高城百合子! 6 00:00:40,531 --> 00:00:43,000 …さん。 7 00:00:43,000 --> 00:00:44,936 それは紛れもなく➡ 8 00:00:44,936 --> 00:00:48,339 かつて千代ちゃんが 心を奪われた あの女優➡ 9 00:00:48,339 --> 00:00:51,676 高城百合子でした。 10 00:00:51,676 --> 00:01:00,017 ♬「オレンジのクレヨンで 描いた太陽だけじゃ」 11 00:01:00,017 --> 00:01:07,692 ♬「まだ何か足りない気がした」 12 00:01:07,692 --> 00:01:11,562 ♬「これは夢じゃない(夢みたい)」 13 00:01:11,562 --> 00:01:16,033 ♬「傷つけば痛い(嘘じゃない)」 14 00:01:16,033 --> 00:01:23,708 ♬「どんな今日も愛したいのにな」 15 00:01:23,708 --> 00:01:29,580 ♬「笑顔をあきらめたくないよ」 16 00:01:29,580 --> 00:01:36,654 ♬「転んでも ただでは起きない」 17 00:01:36,654 --> 00:01:40,525 ♬「そう 強くなれる」 18 00:01:40,525 --> 00:01:45,663 ♬「かさぶたが消えたなら」 19 00:01:45,663 --> 00:01:50,535 ♬「聞いてくれるといいな」 20 00:01:50,535 --> 00:01:57,675 ♬「泣き笑いのエピソードを」 21 00:01:57,675 --> 00:02:06,675 ♬~ 22 00:02:17,995 --> 00:02:20,698 (椿)ちょい待ち! 23 00:02:20,698 --> 00:02:24,035 椿さん ぼたんさん あやめさん こんにちは。 24 00:02:24,035 --> 00:02:27,371 (椿)何や その けったいな生き物は。 25 00:02:27,371 --> 00:02:29,707 えっ? 26 00:02:29,707 --> 00:02:31,642 あっ! えっ? 27 00:02:31,642 --> 00:02:34,545 新しいお茶子さんか! 28 00:02:34,545 --> 00:02:37,515 へえ。 ほな さよなら。 29 00:02:37,515 --> 00:02:40,318 (椿)待ち。 30 00:02:40,318 --> 00:02:43,654 よう そないなお茶子 雇うわ。 31 00:02:43,654 --> 00:02:48,326 おかげさんで毎日忙しゅうて 人手は なんぼあっても足れしまへん。 32 00:02:48,326 --> 00:02:51,026 行くで! (2人)へえ。 33 00:02:52,997 --> 00:02:54,932 (あやめ)ふんっ。 34 00:02:54,932 --> 00:03:00,338 千代ちゃんは 何かから逃げてるらしい 高城百合子さんをかくまうため➡ 35 00:03:00,338 --> 00:03:03,638 ひとまず 岡安へと連れてきました。 36 00:03:06,677 --> 00:03:08,613 かめさん。 かめさん。 37 00:03:08,613 --> 00:03:11,015 どこで油売ってたんや。 38 00:03:11,015 --> 00:03:14,886 富士子が 追加のお茶箱 えびす座に持ってこさして言うてたで。 39 00:03:14,886 --> 00:03:17,889 ご寮人さんは? (かめ)さっき 旦さんと いとさんと➡ 40 00:03:17,889 --> 00:03:20,691 出ていきはったわ。 高津さんお参りして➡ 41 00:03:20,691 --> 00:03:24,028 夜店行く言うてはったさかい 遅なりはんのと違うか。 42 00:03:24,028 --> 00:03:27,328 困ったなあ こないな時に。 (かめ)どないしたんや? 43 00:03:31,302 --> 00:03:34,639 千代 この人…。 44 00:03:34,639 --> 00:03:36,574 びっくりしたやろ。 45 00:03:36,574 --> 00:03:39,310 どちらさん? 46 00:03:39,310 --> 00:03:43,180 知らんの!? 大女優の高城百合子さんやで! 47 00:03:43,180 --> 00:03:45,983 知らん。 あかん。 48 00:03:45,983 --> 00:03:50,855 (ハナ)ほう こら また えらいお客さんやことなあ。 49 00:03:50,855 --> 00:03:52,857 お家さん。 50 00:03:52,857 --> 00:03:55,993 (ハナ)あ~ なるほどな。 51 00:03:55,993 --> 00:03:58,663 先前から 鶴亀の熊田はんらが➡ 52 00:03:58,663 --> 00:04:00,998 あっちゃ行ったり こっちゃ行ったりしてはったん➡ 53 00:04:00,998 --> 00:04:05,670 そういうことかいな。 お家さん 実は…。 54 00:04:05,670 --> 00:04:08,572 ≪ごめんやす。 55 00:04:08,572 --> 00:04:11,272 (戸を開ける音) 56 00:04:13,010 --> 00:04:16,010 お茶 置いときます。 57 00:04:21,352 --> 00:04:24,352 <やっぱり きれいやなあ> 58 00:04:26,223 --> 00:04:30,695 何だす あんた まだ ここに いてたんかいな。 59 00:04:30,695 --> 00:04:33,995 せやった。 お茶箱 えびす座に持ってかな! 60 00:04:44,241 --> 00:04:52,316 あんたさんの 板の上での あの美しい立ち姿➡ 61 00:04:52,316 --> 00:04:55,616 目に焼き付いてます。 62 00:04:58,189 --> 00:05:04,662 ここ道頓堀は 役者さんと共に生きる街だす。 63 00:05:04,662 --> 00:05:09,962 また ええお芝居 見せておくれやす。 64 00:05:15,673 --> 00:05:19,543 後でな うまいもん食わしたるさかいな。 65 00:05:19,543 --> 00:05:23,014 <あかん 気になってしゃあない> 66 00:05:23,014 --> 00:05:27,014 あっつ! あっつ! 何をすんねん! あっつ~! 67 00:05:35,960 --> 00:05:40,960 (百合子)私には 神聖な義務が ほかにあります。 68 00:05:48,305 --> 00:05:50,641 熊田さん どないしはったんだす。 69 00:05:50,641 --> 00:05:55,513 (熊田)朝から ずっと人捜してんのやけど 見つかれへんのや。 70 00:05:55,513 --> 00:05:59,316 大山社長と話 してはったんやけどな いきなり飛び出して➡ 71 00:05:59,316 --> 00:06:04,655 そのまま行方知れずや。 参った。 72 00:06:04,655 --> 00:06:08,325 どなたさんだす? いてはれへんようになったお人て。 73 00:06:08,325 --> 00:06:19,325 隠してても しゃあないさかい言うけどな 高城百合子いう うっとこの役者や。 74 00:06:20,905 --> 00:06:29,205 詳しいことは言われへんけどやな 役者 辞めてしまうかも分かれへんなあ。 75 00:06:31,949 --> 00:06:39,824 早川延四郎といい 高城百合子といい まだまだやれんのに もったいないわ。 76 00:06:39,824 --> 00:06:42,593 ほんまに役者っちゅうもんは…。 77 00:06:42,593 --> 00:06:48,593 ≪(拍手と歓声) お… ハネたな。 78 00:06:50,634 --> 00:06:55,334 ごめんやっしゃ! ごめんやっしゃ! ごめんやっしゃ! ごめんやっしゃ! 79 00:06:57,508 --> 00:07:01,208 ただいま戻りました! (4人)お帰り。 80 00:07:08,986 --> 00:07:11,986 ≪(ドアを閉める音と足音) 81 00:07:15,326 --> 00:07:17,626 どないしたんや…。 82 00:07:20,197 --> 00:07:23,200 よかったなあ 高城さん まだ いてはって。 83 00:07:23,200 --> 00:07:28,672 …って この人 行った時のまんまや。 84 00:07:28,672 --> 00:07:32,276 あの…。 はあ…。 85 00:07:32,276 --> 00:07:36,614 おなかがすいちゃったんだけど お食事 まだかしら。 86 00:07:36,614 --> 00:07:38,549 へえ! 87 00:07:38,549 --> 00:07:49,960 ♬~ 88 00:07:49,960 --> 00:07:51,960 ん~。 89 00:07:54,632 --> 00:07:57,301 お酒 お持ちしましょか? 90 00:07:57,301 --> 00:07:59,970 ぶどう酒 頂ける? えっ? 91 00:07:59,970 --> 00:08:01,906 私 あれしか飲まないのよ。 92 00:08:01,906 --> 00:08:09,980 あの真っ赤な血のようなお酒を飲むと こう 気分が 高ぶってくるの。 93 00:08:09,980 --> 00:08:12,650 へえ…。 94 00:08:12,650 --> 00:08:16,650 <女優さんて みんな こないなもんなんやろか> 95 00:08:18,522 --> 00:08:21,659 あなた 何でお茶子さんになろうと思ったの? 96 00:08:21,659 --> 00:08:25,329 えっ? ああ いきなりで ごめんなさい。 97 00:08:25,329 --> 00:08:28,232 私 そういうの すごく気になっちゃうの。 98 00:08:28,232 --> 00:08:32,937 なろ思たいうより それしかあれへんかったんだす。 99 00:08:32,937 --> 00:08:37,608 ん~ じゃあ 本当は 違うことがしたかったってこと? 100 00:08:37,608 --> 00:08:41,478 いや そういうことやのうて…。 101 00:08:41,478 --> 00:08:45,950 高城さんは 何で役者さんになろ思いはったんだす? 102 00:08:45,950 --> 00:08:49,620 私? う~ん…。 103 00:08:49,620 --> 00:08:52,523 (節子)何で高城百合子が ここ いてんの? 104 00:08:52,523 --> 00:08:55,492 (富士子)ほんで 何で 千代と仲よう しゃべってんの? 105 00:08:55,492 --> 00:08:58,295 理由は いろいろある。 106 00:08:58,295 --> 00:09:00,631 男に負けたくなかったし➡ 107 00:09:00,631 --> 00:09:05,970 家族とか 親戚とか 誰も頼る人がいなかったから➡ 108 00:09:05,970 --> 00:09:10,307 私は自分の力だけで 生きていかなくちゃならなかったの。 109 00:09:10,307 --> 00:09:16,180 でも 一番の理由は… そう言われたから。 110 00:09:16,180 --> 00:09:18,983 誰にだす? 自分自身に。 111 00:09:18,983 --> 00:09:22,319 こう 自分の体の内側から➡ 112 00:09:22,319 --> 00:09:25,656 そうしろ そうしろっていう声が 聞こえたの。 113 00:09:25,656 --> 00:09:28,559 分かる? 114 00:09:28,559 --> 00:09:31,462 さっぱり分かりまへん。 115 00:09:31,462 --> 00:09:36,462 あっ… アハハ。 そう。 フフフ。 116 00:09:38,936 --> 00:09:43,236 ほんなら 今は 辞めいう声が聞こえてんのだすか? 117 00:09:50,281 --> 00:09:53,581 すんまへん 今の忘れとくなはれ。 118 00:10:14,505 --> 00:10:19,310 私は ただ しようと思うことは➡ 119 00:10:19,310 --> 00:10:23,010 是非しなくちゃならないと 思ってるばかりだす! 120 00:10:24,982 --> 00:10:29,320 これ うちが初めて百合子さん見た時の お芝居だす。 121 00:10:29,320 --> 00:10:32,020 ちょっこと待ってておくれやす。 122 00:10:33,657 --> 00:10:35,957 (戸を閉める音) 123 00:10:42,666 --> 00:10:47,366 うち それ読みとうて 一生懸命 字ぃ覚えたんだす。 124 00:10:50,007 --> 00:10:53,877 正直 今でも 意味は よう分かれしまへんけど➡ 125 00:10:53,877 --> 00:10:57,348 あの時のことは忘れられへん。 126 00:10:57,348 --> 00:11:01,018 百合子さん 覚えてはりますか? 127 00:11:01,018 --> 00:11:03,718 すっかり忘れてた。 128 00:11:06,890 --> 00:11:11,028 でも思い出したわ。 129 00:11:11,028 --> 00:11:17,368 私には 神聖な義務が ほかにもあります。 130 00:11:17,368 --> 00:11:20,704 どんな義務というのだ。 131 00:11:20,704 --> 00:11:25,042 私自身に対する義務ですよ。 132 00:11:25,042 --> 00:11:27,711 (拍手) それや! それだす! 133 00:11:27,711 --> 00:11:32,983 やっぱり ちゃうなあ ほんまもんは。 134 00:11:32,983 --> 00:11:38,655 何より 第一に お前は妻であり 母である。 135 00:11:38,655 --> 00:11:41,355 そんなことは もう信じません。 136 00:11:43,994 --> 00:11:49,333 高城百合子さんは この時 所属している鶴亀株式会社の方針で➡ 137 00:11:49,333 --> 00:11:54,004 舞台役者から映画へ転向するように 命じられていたそうや。 138 00:11:54,004 --> 00:11:57,341 百合子さんは それに抵抗しはった。 139 00:11:57,341 --> 00:12:00,244 当時の日本映画界は まだまだの状態で➡ 140 00:12:00,244 --> 00:12:05,215 百合子さんの求める演技は 映画の世界にはないと思たんやな。 141 00:12:05,215 --> 00:12:08,352 千代ちゃんは そないな話は何も知りません。 142 00:12:08,352 --> 00:12:12,689 知らんけど とにかく百合子さんを 励ましたかったんや。 143 00:12:12,689 --> 00:12:15,592 ああ もう奇跡なんか信じない! 144 00:12:15,592 --> 00:12:17,892 私は信じるよ。 145 00:12:20,364 --> 00:12:23,364 さようなら。 146 00:12:29,706 --> 00:12:38,006 (拍手) 147 00:12:39,983 --> 00:12:42,283 もう行くわ。 148 00:12:53,530 --> 00:12:57,534 あなた 名前は? 149 00:12:57,534 --> 00:13:00,304 千代だす。 竹井千代。 150 00:13:00,304 --> 00:13:06,004 千代ちゃん… そんなにお芝居が好きなら 自分でやってみたら? 151 00:13:08,011 --> 00:13:15,311 一生一回 自分が本当にやりたいこと やるべきよ。 152 00:13:40,911 --> 00:13:44,648 旦那さんにお似合いの帽子も ありますよ~。 153 00:13:44,648 --> 00:13:46,984 (みつえ)そや うち 髪留め欲しい。 154 00:13:46,984 --> 00:13:50,854 (宗助)ああ それやったら さっき 向こうで売ってたわ。 買いに行こうか。 155 00:13:50,854 --> 00:13:55,325 (シズ)旦さん みつえに甘すぎます。 無駄なもん買うたら あきまへん。 156 00:13:55,325 --> 00:13:58,996 無駄なもん ちゃうもんなあ。 髪留めやもんなあ。 157 00:13:58,996 --> 00:14:02,666 お母ちゃん お願い。 しょうおまへんな。 158 00:14:02,666 --> 00:14:06,537 わて しんどなったさかい ここらで腰掛けて待ってますさかい。 159 00:14:06,537 --> 00:14:10,237 そうしとき。 行こ行こ。 行こ行こ。 160 00:14:16,213 --> 00:14:21,018 延四郎はん うち あれ欲しい。 (延四郎)さっき買うたばっかりやがな。 161 00:14:21,018 --> 00:14:25,689 そや 今度は うちの番や。 (延四郎)あんたは その前に買うたわ。 162 00:14:25,689 --> 00:14:29,560 延四郎はん こっちにいてはったこと あんの? 163 00:14:29,560 --> 00:14:32,496 (延四郎)まあ…。 164 00:14:32,496 --> 00:14:36,633 あんな 2人とも これで好きなもん買うてき。 165 00:14:36,633 --> 00:14:39,333 延四郎はん おおきに。 (延四郎)ああ 行ってき。 166 00:14:45,309 --> 00:14:47,978 分かるもんやな。 167 00:14:47,978 --> 00:14:51,315 あれから 20年たってるいうのに。 168 00:14:51,315 --> 00:14:57,315 この方は あの歌舞伎役者 早川延四郎さんです。 169 00:14:59,656 --> 00:15:03,327 (延四郎) 何べんも手紙書いたんやけどな…。 170 00:15:03,327 --> 00:15:09,199 (シズ)相すまんことだすけど みんな読まずに捨てております。 171 00:15:09,199 --> 00:15:13,670 (延四郎)シズ…。 ほな ごめんやす。 172 00:15:13,670 --> 00:15:19,970 千秋楽の明くる日の朝 ここで待ってる。